管理番号 | 8 |
年度 | 1995年 |
研究テーマ | 霧多布湿原におけるヨシ群落の組成と埋土種子集団の関係 |
研究者名 | 安島美穂 |
所属 | 岐阜大学流域環境研究センター |
分類 | 植物生態 |
キーワード1 | 植物 |
キーワード2 | 生態 |
キーワード3 | 植生 |
キーワード4 | |
テキスト | 8 平成7年度 霧多布湿原におけるヨシ群落の組成と埋土種子集団の関係 安島美穂 はじめに 植物群落の動態を考える際には、群落を構成する植物体の栄養成長や生殖成長にまつわる特性を明らかにすることが必要である。しかし同時に、植物体から散布された種子の休眠や発芽に関する機構を解明し、種子のステージを生活史の中に位置付けていく必要もある(中越 1981a) 。埋土種子集団は、種子散布による種子の供給と、発芽や枯死、被食などによる消失により常に質や量が変動している(大賀 1995) 。したがって、埋土種子集団を調べることは、散布後の種子の動態を知り、種子の散布から実生の定着までのステージを理解するのに有効である。生活史中に埋土種子の期間をもつことを繁殖戦略のーつとしている種には、遷移初期に出現する木本種が知られている(Olmstead & Crutis 1947;中越1981b;Hirabuki 1988) 。これらの種は、撹乱が生じると直ちに発芽して個体群を形成する。このことを群落の遷移という観点からみると、撹乱直後にこれらの種の実生が出現することは、二次遷移が始まる原動力のーつとなっているといえる。遷移の途中相である草本群落の遷移と埋土種子集団の関係についての研究では、草本群落の埋土種子集団中には遷移の前段階と後段階の種が含まれており、埋土穂子が遷移の推進力の一つであるといわれている(沼田ほか 1964) 。湿原では、冷湿で無気性の堆積環境が種子の死亡率を減少させている可能性や(Harper 1977) 、水環境の特性が埋土種子の種組成や寿命に影響を及ぼしている可能性(Scneider & Sharitz 1986) が指摘されており、従来多くの研究者に興味がもたれてきた(van der Valk & Davis 1976,1978; Leck & Glaveline1979; Hopkins & Parker 1984; Poiani &Johnson 1989; Wienhold & van der Valk1989) 。そしてその多くで埋土種子集団の密度や植生との相関について考察されているが、そこからは一定の見解が得られておらず、埋土種子集団のもつ機能に関しての議論もあまりおこなわれていない。この理由として、調査地の地理的条件や環境条件、調査時の季節、群落タイプなどの違いが考えられる。それと同時に、湿原には湿性遷移系列の途中相としての群落のほかに、気候的極相や土壌的極相の群落があり、群落の来歴や遷移系列上の位置が埋土種子集団のあり方に影響を与えている可能性もある。ヨシは世界の亜寒帯から暖温帯にかけて分布し、地下水位が地表付近にあるような過湿な立地に大群落を形成する。ヨシ群落には、湿性遷移系列の途中相にみられる一群落として、ハンノキやエノキの林に変化してゆくと考えられるものもあるが、霧多布湿原のヨシ群落は冷涼で過湿な環境条件のもとで長い間維持されている極相群落と考えられる。本研究は、蓄積された種子が群落の維持や撹乱時の群落の再構築にどのような役割を果たすのか、他のヨシ群落の埋土種子集団の調査結果との比較から、環境条件や群落タイプの違うヨシ群落の埋土種子集団にどのような共通点や相違点があるのかを考察することを目的としておこなった。 |
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