霧多布湿原学術研究支援成果データベース

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管理番号66
年度2005年
研究テーマゼニガタアザラシはどのような上陸場を使い分けているか
研究者名小林由美
所属北海道大学大学院水産科学院資源生物学教室
分類哺乳類
キーワード1動物
キーワード2生態
キーワード3ほ乳類
キーワード4
テキスト66 平成17年度
   ゼニガタアザラシはどのように上陸場を使い分けているか~浜中湾一帯におけるゼニガタアザラシ Phoca vitulina stejnegeri を中心とした海生哺乳類の生息数と生息状況~ 小林由美
はじめに
北海道周辺を含むアジア極東海域においては,陸上繁殖型のゼニガタアザラシ Phoca vitulina stejnegeri ,オホーツク海等の氷上で繁殖するゴマフアザラシ P.Largha,ワモンアザラシ P.hispida,クラカケアザラシ Historiophoca fasciata,アゴヒゲアザラシ Erignathus barbatus nauticus の計5種のアザラシ類が生息する.陸上の岩礁域で繁殖する harbor seal (広域のゼニガタアザラシ) Phoca vitulina は,北太平洋と北大西洋に広く分布し,地理的分布により 5 亜種が認められており (Bigg 1981),北海道東部沿岸に生息するゼニガタアザラシ Phoca vitulina stejnegeri はアジア極東域における一亜種である.北海道内のゼニガタアザラシは,1940年頃には1500頭程度が生息していたと考えられている (犬飼 1942) が,1980年代には北海道東部沿岸に350頭程度の生息数に減少し,その減少要因としては,肉・毛皮・脂採取を目的としたアザラシ漁,昆布の増収と収量の安定化を目的とした岩礁爆破,そして漁業による混獲が考えられた (伊藤・宿野辺 1986).現在の主要な上陸場は襟裳岬,厚岸 A,大黒島,浜中 A,浜中 B,ユルリ島,モユルリ島の7ヶ所であり,ここ20年間,北海道のゼニガタアザラシは微増傾向にあり,900頭以上が観察されるようになった (齋藤・渡邊 2004).しかしながら主な上陸場の数は増加しておらず,襟裳岬と大黒島の2箇所の上陸場へ個体数の集中が見られる (千嶋 1997a.斎藤・渡邊 2004).特定の上陸場への集中化は遺伝的多様性の減少の危険性があり,また,感染症が流行した場合に,北海道のゼニガタアザラシは一気に減少し,絶滅の危機に瀕する可能性が考えられる (千嶋 1997a.斎藤・渡邊 2004).本種は,現在環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種IB類に指定されている.環境省は,2003年に日本で観察されるアザラシ類 5 種を「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」による対象種に指定した.とりわけ本種については,北海道東部の特定の上陸場で出産・育児・休息・換毛を行うこと,漁業被害がある (例えば,和田ら 1986,Wada et al.1991,えりもシールクラブ2001,中川 2003,小林 2004,齋藤・渡邊 2004,Nakagawa 2005,小林ら 2005) ことから,基本的生態調査と将来的な保護管理体制の検討が社会的に求められていると考えられる.全道で4地域 (襟裳岬・厚岸・浜中・根室) にあるゼニガタアザラシ上陸場の一つである浜中は,1970年代には浜中A (海岸に接する岩礁帯),浜中B (Aの沖合い5㎞の小島),初田牛 (Aより10㎞離れた岩礁帯),ケンボッキ島の4つの上陸場が存在していた (図1)が,ケンボッキ島は1975年以降消滅状態である (伊藤・宿野辺 1986).現在では,AとBおよび初田牛の3上陸場で上陸が観察される.浜中Aは通年ゼニガタアザラシが観察されるが,換毛期以降の秋期に80頭以上が上陸する一方で,繁殖期 (5~6月) には10頭前後 (数頭の新生仔を含む) が上陸する (櫨山 1994,渡邊ら 1997,藤井 2001a,中満 2002).浜中Bは,繁殖期には70頭程度が,換毛期には20頭前後が上陸し,繁殖場として重要であると考えられる (千嶋 1999).初田牛1970年代まで大きな繁殖場であったが,1980年代以降破壊していた (伊藤・宿野辺 1986).近年8月中旬から5月上旬までの限られた季節に少数が上陸している (千嶋ら 2000).個体識別法 (2-1-3参照) により、これら3上陸場の時期別に利用している個体の存在が確認されており,季節によった上陸場の使い分けが示唆されている (千嶋 未発表).そこで本研究では,浜中地域の3 上陸場のゼニガタアザラシの上陸個体数の季節変化とその齢構成の時系列変化に着目しながら,浜中湾一帯におけるゼニガタアザラシを中心としたアザラシ類の生息数と生息状況を明らかにすることを目的とした.
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