霧多布湿原学術研究支援成果データベース

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管理番号46
年度2001年
研究テーマ北海道浜中町の環境教育実践の展開構造~学校教育と社会教育とまちづくりの連関の構造~
研究者名玉井康之
所属北海道教育大学教育学部釧路校
分類環境教育
キーワード1環境教育
キーワード2
キーワード3
キーワード4
テキスト46 平成13年度
   北海道浜中町の環境教育実践の展開構造-学校教育と社会教育とまちづくりの関連の構造- 玉井康之
終章-浜中町の学社融合型環境教育の意義と可能性
本研究では、浜中町の環境教育実践の全体構造を明らかにしつつ、学校教育と社会教育が連携した環境教育の特徴とまちづくりとの関連性を明らかにした。全国的には、1970 年代以降の全国的な乱開発とレジャー施設誘致競争の中で、地域の自然環境の破壊と多額の町財政を投入するという現象が起きたが、浜中町では自然環境を守ることを継続的に取り組み、ゴルフ場の誘致等も行わず、開発会社の湿原リゾート開発も拒否してきた。このような中で、現在では、自然環境を保全することとまちづくりを進めることが、一体となって展開している。またその中では、学校教育と社会教育が連携しながら、町民と子どもたちが一体となって環境学習を進めている。子どもたちに対する環境教育は、社会教育が早くから取り組んでいるが、一過性の活動ではなく、長期的に取り組んでいるために、子どもの時に取り組んだ環境保全活動が、大人になって意識されるように、長期的な取り組みの成果が見られている。社会教育の学習構造としては、湿原を守る NPO 法人の先進的な活動を契機にしつつ、社会教育行政による自然環境保全のためのイベントや学習・講演活動などによって、町民の環境保全意識が徐々に高まっている。さらに子どもたちの自然体験リーダー研修や湿原センターと連携した事業によって、子どもたちの学校外での環境保全活動や環境意識が年々高まっている。また社会教育行政が呼びかけて実施された湿原周辺等のゴミ拾いは、町民と子どもたちが一体となって実施しており、分離しがちであった知識と行動を一体化しながら、環境意識を高めていく上できわめて効果的な取り組みであった。このことが町に対する誇りやまちづくりに自分たちが主体的に関わらなければならないという意識を生み出している。学校教育では、元々あったへき地教育の一環としての「ふるさと学習」を基盤にしつつ、早くから「総合的な学習」を他町村に先駆けて導入している。その取り組みの特徴は、第1に、普段何気なく見ている学校区の身近な自然を取り上げながら、環境問題の奥深さ・重要性を認識できるようにしていること。第2に、探検的な体験学習から入って、自然の中での新たな発見・気づきを大事にしながら、環境問題の科学的専門的な調べに学習に移行していること。第3に、専門的な内容を調べる上で、学校が霧多布湿原センターや漁師(父母)などの専門家や関係者と積極的に連携しようとしていること、である。そしてこれらの活動を進める上で、教員も学校を地域に開放できるように取り組んだり、地域の人材を学校に活用できるように、意識的に学校と地域の関係を強めている。このような中で子どもたちの環境に対する認識も、暮らしと環境が連関していること、海と川と湿原が連関していること、農林漁業の地場産業と湿原の保全が連関していること、食生活の安全性と自然環境が連関していること、などを感じ取っている。これらは、自然環境保全の長期的な効果をもたらすもので、人間と自然、及び山・川・湿原・海の循環型の環境保全の重要性に気づくものである。これらは環境教育の効果としてのみならず、生命を尊重する心の教育活動としても極めて有効である。このように浜中町は、霧多布湿原センターを中核的な専門施設としながら、社会教育と学校教育がうまく連携しつつ、また環境教育とまちづくりが相互発展的に展開していることが明らかとなった。原生的な自然保護とまちづくりの活動は、しばしば対立的にとらえられがちであるが、浜中町においては、日本の端にあるという立地条件を逆手にとって、自然保護とまちづくりとを連動させて展開していたのである。これらを長期的に可能にするためには、地域住民の意識的な啓発活動が必要であるが、浜中町では、子どもたちの教育と大人たちへの教育活動が車の両輪として展開している。大人が子どもたちに環境の重要性を伝えていけば、子どもたちは家庭においても親たちに伝えていくし、また子どもたちが大人になったときには、確固とした信念に基づいて、知識と行動を結びつけて活動できるようになる。浜中町は、まちづくりと環境教育の統一の必要性、および社会教育と学校教育の統一性の重要性、そして知識と行動の統一的な取り組みの重要性を示している。
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