霧多布湿原学術研究支援成果データベース

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管理番号15
年度1997年
研究テーマ釧路市及び浜中町霧多布湿原における移流霧の酸性化メカニズムについての調査結果報告
研究者名三浦二郎
所属北海道教育大学教育学部釧路校
分類環境科学
キーワード1環境
キーワード2気象
キーワード3
キーワード4
テキスト15 平成9年度
   釧路市及び浜中町霧多布湿原における移流霧の酸性化メカニズムについての調査結果報告 三浦二郎
緒論
酸性雨を厳密に定義するとpH5.6以下の雨となる.これは、現在大気中に存在している約350ppmv の二酸化炭素と雨水が平衡状態になった場合に、pH約5.6を示すからである.いま、日本で観測される降雨のpHは5以下が大半で全国で酸性雨が観測されている。ここ数年、森林の衰退、湖沼の酸性化と魚の死滅、金属の腐食や建物・彫刻等の崩壊など酸性雨・酸性霧による被害が欧州や北アメリカを中心に大きな問題となっていたが、現在は東アジア諸国の著しい経済発展のためアジア地域が第三の酸性雨被害の中心地になりつつある。この影響を少なからず受けて日本は酸性雨の被害が明らかになってきている。なかでも、霧は雨に比べ発生が地表付近であり、微小水滴であるため浮遊している時間が長い。よって、大気中物質を降雨に比べ多量に取り込み高濃度に汚染された微小水滴が植物生態系に直接的な影響を与える可能性がある。多くの植物ではpH3.0以下の人工酸性雨を葉面散布すると葉の表面に壊死斑(ネクローシス)が発生する1)。そしてこの壊死斑の95%が葉面上の毛や気孔の近辺に局在しており、ガス交換や分泌作用などの生理機能が阻害される。抵抗性の弱い種ではpH3.5程度でも障害が発現する。多くの種類の農作物に対しN03-:S042—を2.5対1の割合で作った模擬酸性霧を1日1時間日没直後に暴露を行った2)。その結果、同様にほとんどの作物はpH3.0でネクローシスを発生し、pH2.0に近づくと激しくなり、カリフラワー、ホウレンソウやレタスではpH2.4~2.6で商品価値が減少する。これらの室内実験によって酸性霧の植物影響を証明している。国内での酸性霧の調査は赤城山の滑昇霧の調査(1984~) 3)があり、低pHの霧(pH=3台)が10時間続く例が報告されている。また、海霧による酸性霧に関した調査では、苫小牧でのストローブマツの異常落葉に関する調査4)があるが、この調査によって酸性霧による植物被害が国内でも指摘された。霧の酸性化についての研究は滑昇霧については多く研究されているが、海霧については苫小牧、カナダ大西洋東海岸5)くらいで発生地域が限られていることより研究例が少ない。また、海霧は海洋起源の雲粒形成核の主要成分と考えられているDMSの影響を大きく受けると考えられ、海洋起源の硫黄化合物の大気供給を観測する一手段といえる。本研究室では、1991年より本校屋上で霧の観測を行ってきた結果、酸性度の高い霧が多く観測され、道東域での霧の酸性化が明らかになってきた6) 。また、1994年より霧多布で夏期において霧の観測を行ってきたが釧路地域の霧より人為的影響による酸性化原因物質の少ない霧多布の霧のほうが酸性化している事が多く観測された。この調査の結果として移流してくる海上で既に酸性化していると考えられ、バックグランドレベルの特定及び霧の酸性化プロセスの解明が重要であると考えられた。よって、本研究では海洋からもたらされる酸性化原因物質量を求めバックグランドレベルを推定する。また、霧の上陸から消散までを海岸及び内陸で集中的に観測し、1回の霧の発生の中で霧水の水質・粒径の経時変化を調べる。そこから化学的(成分分析)・物理的(粒径とその成長・霧水量から求める付着率)解析より、道東における移流霧の特性理解及び付着効率を算出することを目的としている。
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